第2章

浮世ナイトクラブ内。

仕事を終えた二ノ宮涼介は招待を受けて888号室にやって来た。ドアを開けた瞬間、目の前に花火が飛び出した。

「誕生日おめでとう!」

二ノ宮涼介は眉をひそめた。彼はもう長い間、誕生日を祝っていなかった。

羽川陸が近づいて二ノ宮涼介の首に腕を回した。「どうだ!気に入ったか!」

「つまらない」

「ちっちっち、口ではそう言っても、実は内心では嬉しいんだろう?冷たい顔をしてさ」

数人がソファに座り、酒を飲もうとしたとき、部屋のドアが外から開かれた。

来た人を見て、江川新以外の二人は驚いた。

九条遥もここで二ノ宮涼介に会うとは思わず、足を止めた。

最近、彼女は突然テレビ局を解雇され、何度も面接を受けたが結果は出なかった。まるで業界全体から追放されたかのようだった。

しかし、家には急にお金が必要で、何度も回ってようやく羽川初美の紹介でアルバイトを見つけた。

本来、九条遥は行きたくなかったが、手術が必要な娘と病弱な母親のことを考えると、何も気にせず行くしかなかった。

……

九条遥はそのまま部屋の入り口に立ち、動けなかった。

気まずい沈黙の中、江川新が先に口を開いた。「来たんだから、入口に立ってないで、早く入って来いよ」

羽川陸がすぐに肘で江川新を突いた。「何してるんだ!」

「九条遥……俺が呼んだんだ」

そう言うと、羽川陸の目が大きく開き、次に江川新に親指を立てた。「お前は本当にすごいな。言うだけじゃなく、涼介の前に連れて来るなんて、二人が喧嘩するのを恐れないのか」

その言葉を聞いて、九条遥は二ノ宮涼介を見上げた。

二ノ宮涼介はただ静かに酒を飲んでいるだけで、一言も発しなかった。

九条遥は勇気を出して、ステージに上がり、歌い始めようとした。

皆がこのまま事が収まると思ったとき、二ノ宮涼介が立ち上がり、九条遥の前に歩み寄った。

「西京市長の娘が、ナイトクラブで稼ぐのか?」

九条遥は口元を引きつらせた。私がここで稼ぐ羽目になった理由、あなたは知らないわけがないでしょう?

「天子の娘でも、お金がなければ稼がなければならない。まともな仕事が見つからないから、こんな場所に来るしかないのよ」

二ノ宮涼介は突然笑った。「いいね、稼ぎに来たなら、ゲームをしようじゃないか」

九条遥は心の中に不安が湧き上がった。二ノ宮涼介がこんな笑顔を見せるときは、絶対に良いことがない。

二ノ宮涼介はポケットからカードを取り出した。「中には100万円が入っている。パスワードはない。この酒を飲めば、君のものだ」

カードは無造作にテーブルに投げられ、二ノ宮涼介はその酒を手に取り、ソファにだらしなく寄りかかった。

「二ノ宮社長、別のゲームにしてもらえませんか?私はアルコールアレルギーで、酒が飲めないんです」

二ノ宮涼介は手の中の酒を揺らしながら言った。「ほう?アルコールアレルギーだって?知らなかったな」

九条遥は二ノ宮涼介の言葉を聞いて、その意図を理解した。

二ノ宮涼介は彼女がアルコールアレルギーであることを知っていて、わざと困らせようとしているのだ。

九条遥は深い無力感を感じた。この酒は避けられない。

「それでは、失礼します」

九条遥はバイオリンを置き、二ノ宮涼介の前に歩み寄り、彼が酒を渡してくれるのを待った。

二ノ宮涼介の座っている位置は特殊で、長い脚がソファとテーブルの間に横たわり、道を塞いでいた。

九条遥がその酒を取るには、二ノ宮涼介の脚を跨ぐしかなかった。

二ノ宮涼介がなかなか反応しないので、九条遥は慎重に口を開いた。「二ノ宮社長?」

「ん?」

二ノ宮涼介の怠惰な声が九条遥の耳に届き、まるで羽毛が心の先に落ちたように、心がくすぐられる。

「お手数ですが、酒を渡していただけますか」

「自分で取れ」

九条遥はその長い脚を見て、困惑した。

江川新と羽川陸に目を向けると、二人はいつの間にか部屋を出ていた。

今、部屋には彼女と二ノ宮涼介だけが残っていた。

九条遥はしばらく考え、最終的に決心して跨ごうとした。

脚を上げた瞬間、二ノ宮涼介は予想していたかのように脚を上げた。

九条遥はそのまま二ノ宮涼介の胸に抱きつく形になり、彼と向かい合った。九条遥は二ノ宮涼介の顔を見つめ、心臓がさらに速く鼓動した。

「二ノ宮社長……」

彼女は起き上がろうとしたが、その姿勢では力が入らず、ソファに手をついて起き上がるしかなかった。

どの動作が二ノ宮涼介を怒らせたのか分からないが、二ノ宮涼介は彼女の両手を後ろに縛り上げた。

「二ノ宮涼介?」

自由を奪われた九条遥は、目の前のボスを気にせず、すぐに怒りを爆発させた。

「酒を飲んで、金を稼げ」

二ノ宮涼介は酒杯を九条遥の唇に押し当て、その視線も彼女の唇に落ちた。

金、どんな尊厳が四万に値するのか、彼女は飲むしかない!

九条遥はゆっくりと顔を上げ、二ノ宮涼介の力に従って酒を口に含んだ。

酒は非常に強く、九条遥は急いで飲んだため、冷たい液体が喉を通り過ぎると、まるでガラスの破片を飲んだようだった。

九条遥は最終的に激しく咳き込み、酒杯の残りの酒がこぼれ、二人の服にかかった。

九条遥の今日の服は薄く、中の黒いものがうっすらと見えた。

二ノ宮涼介は眉をひそめ、次に九条遥の顔をつかんだ。

「お前は歌を売りに来たのか、それとも体を売りに来たのか?」

黒い下着が何だって言うの!

九条遥は心の中でつぶやき、二ノ宮涼介の体から離れようとした。

しかし、彼は彼女の両手をしっかりと握り、放そうとしなかった。

「酒は飲み終わった。二ノ宮社長、もう行かせてくれますか?」

二ノ宮涼介は立ち上がり、二人の距離を縮めた。九条遥は彼の息遣いを感じるほど近かった。

二ノ宮涼介は再び強い酒を手に取り、「さっきのはこぼれたから、カウントしない。もう一度飲め」

「何ですって???」

二ノ宮涼介は眉を上げた。「どうした、金を稼ぎたくないのか?」

九条遥は下唇を噛みしめ、再び酒杯に唇をつけた。

一度目の経験があったため、九条遥は今回は強い酒の喉を切る感覚に何とか耐えられた。

一杯の酒を飲み干すと、九条遥の体に赤い発疹が出始め、顔にも異常な赤みが浮かんだ。

「酒は飲み終わりました。二ノ宮社長、お金をいただけますか」

二ノ宮涼介は九条遥をしばらく見つめ、次に彼女をソファに投げ出し、汚れたスーツを床に投げ捨て、手を嫌そうに拭いた。

「今後、俺の前に現れるな。その指輪、捨てろ。見ていると苛立つ」

九条遥は無意識に手の指輪を覆った。二ノ宮涼介がこの指輪をまだ覚えているとは思わなかった。

指輪は高価ではないが、二ノ宮涼介が彼女に贈った唯一の贈り物だった。

「二ノ宮社長は今や他人のアクセサリーまで管理できるほどの権力を持っているのですか?」

二ノ宮涼介は何も言わず、顔色がさらに悪くなり、部屋を出て行った。九条遥だけが残された。

ドアが閉まる音を聞いて、九条遥の涙がこぼれ落ちた。

辛さと悲しみが九条遥を飲み込み、彼女と二ノ宮涼介はもう二度と戻れないのだ。

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